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 雑然とした室内を見渡すと、坂井は目的の人物に声を掛けた。
「おい笠井」
「課長、よびましたー?」
 手招きをすると、およそ刑事らしくない服装の警部補は、にへらとしまりのない笑顔を浮かべてよってくる。

「来週から来る新人だがな、お前に任せる」
「……」
 坂井の言葉に、笠井は表面的には変わらぬ微笑を浮かべたまま、ごく微かに目の色を曇らせた。
「優秀だという評判だ、しっかりみてやってくれ。いいな」
 その言葉に、笠井がほんの僅かに困ったように微笑んだ。
「優秀なんだったら、僕じゃない方がいいと思いますよー?」
「だから、お前なんだ」
 溜息を吐き、坂井は言う。

 坂井はかつて、笠井の父の部下だった。そのせいで、笠井のことも小さい頃から知っている。だから、一見すると道化にしか見えない彼が、本当はとても優秀であることを誰より知っているのも坂井だった。
 彼が今のようになった理由も、何となくだが想像がつく。だが笠井は、彼がそれに触れることを許さない。
 いつでも、それを話題に揚げる直前に、彼はふらりと笑って身をかわしてしまう。
 かつての上司の息子のそんな姿に、坂井はいつでももどかしい想いを感じていた。

「……とにかく、来週の月曜から来るから。頼んだぞ」
 苦笑混じりに首を傾げる笠井の肩を叩き、有無を言わせぬ口調で、坂井は言った。
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