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のんびり気ままに、安らぎも忘れずに。
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「今日はありがとう、また今度」
 そう言って、僕は今日のデートの相手にヒラヒラと手を振った。
 食堂で給仕をしている、赤毛の魅力的な子だ。
 彼女が自宅に入っていくのを見送って、さて寮に戻ろうかと踵を返したところで、僕はあれ、と呟いて足を止めた。

 前方左手、武練場から寮に向かう小道を、よく知った顔が歩いているのが見えたからだ。
 同郷出身の、幼馴染。
 比較的裕福な家庭の多い街の中でも一番の名家の三男坊だ。
 ちなみに彼の家と決して仲がいいとは言えない二番目の名家が僕の実家だが、家督とは無関係な末っ子同士のせいか、妙にウマがあう。
「ロ……」
 声を掛けようとして、僕はふとそれをやめた。
 灌木に隠れて見えにくいが、彼が誰かと歩いていることに気づいたからだ。
 そして楽しそうに話す彼の表情が、いつになく穏やかなことにも。
「――」
 思わず笑みの浮かんでしまった口元を抑え、僕はそっと歩き出す。
 彼と肩を並べて歩いているのが誰なのかは見なくてもわかった。彼にあんな顔をさせるのは、一人しかいないからだ。
 彼女と出会い、親しくなってから、彼は変わった。
 元々、ガキ大将気質というか、どこか我が儘なところのある性格だったが、それが優しく、懐が深くなり、視野も広くなった。
 昔の彼にへつらっていた同郷の連中の中には、そんな彼の変化が気に入らない者もいるみたいだけど、僕はむしろ、好ましい変化だと思う。――そのせいで女子の人気があがっているのには、ちょっと参るけれど。
 後で部屋に戻ったら揶揄ってやろうなんて思いながら、気配を消したまま、僕はのんびりと二人を追った。
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