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のんびり気ままに、安らぎも忘れずに。
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 自慢じゃないが、俺は12の歳から女に不自由したことはなかった。
 近づいてくる女は、大抵、俺の家柄や立場に目の眩んだ連中だったが、異性に関心を持ち始めたばかりで、しかもかなりスレた可愛げのない餓鬼だった俺は、これ幸いと色々な相手と遊び歩いた。
 そんな俺が片恋、それもよりにもよって男のおの字も知らないような天然娘だとは、あの頃の自分からは到底信じられない展開だ。

「いつもありがとね」
 汗を拭いながら、彼女があどけない笑顔を見せる。
「別に。俺にとっても有意義だから付き合ってるだけだ」
 素っ気なく言ってしまってから、もう少し言い方があるだろうと後悔する。
 そんな俺の内心など忖度することもなく、くすくすと笑う彼女と連れだって、俺達は外に出た。

 ふとしたきっかけから、こうして彼女の自主練に付き合うようになって、もう3年あまりになる。
 ただの好奇心だったはずの感情は、その間にゆっくりと熟成していった。俺自身すら気づかぬうちに。

 すっかり日は暮れ、辺りは外灯のぼんやりとした光に照らし出されていた。
「あ」
 微かに彼女が呟く。
 その視線の先に見覚えのある人影を認めて、俺の胸を苦い感情が占めた。
 こちらには気づかず通り過ぎていくその人を追う、彼女の視線の切なさに気づいたのは、いつのことだったか。
 彼女自身すら未だに自覚していないその感情に気づいているのは、おそらく俺一人だ。素知らぬ顔を、彼女の想いに気づかぬ振りをしてしまえばいいと、何度思ったことだろう。
 一言「好きだ」と伝えてしまえば、この優しい娘は俺を突き放すことはできないだろう。彼女を手に入れるのは、多分想像以上に簡単なことだ。以前の俺なら、躊躇などすることはなかったはずだ。
 だが。
 ゆっくりと、だが確実にこの感情を育ててきた時間が、彼女を裏切ることをよしとしない。

「……おい」
「え?あ、ごめん、ぼっとしてた」
「飯食って帰るぞ」
「?うん」

 そうして今日も。
 甘く苦く、行き場のない想いを燻らせながら、俺は彼女の隣に立っている。

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